スポーツハッカソンforDEXITE
教育とかいうエンドコンテンツ
教育ってエンドコンテンツだと思っている人間見習いです。どれだけ年齢重ねても仕事を変えても不意に教育にアプローチ出来るタイミングってあると思うし、そもそも自分が教育されない側だといつから錯覚しているんだろう、、と思う位には飽きる事無く遊べるコンテンツだと思います。なので立ち回りや、やれることなんかがかなり制限されてしまう日本の学校教育の内側に入る気があまりなく、教師になる気が全然ありません。それでもこれから何をするにしても教育に派生する余地があればいいなと思いながら三年前たまたま山口という土地に来ました。
ラジオ局でも何でもなかったYCAM
そんな僕ですが山口に来て一番最初に思ったことは「ラジオのパーソナリティになろう。」でした。そして町を探検しながらラジオ局どこかにありますか?と聞き込みを始めました。その結果たどり着いたのがここ。
ラジオ局でも何でもなかった。
ラジオ局でも何でもなかったですが、文字を書いている今現在関わりだして三年目になろうとしていますここは、山口情報芸術センター(YCAM)というところです。一体ここは何だというのは書き出すと大変でありますし書きながら僕もわからなくなる自信があるので、気付いたら三年目になっているくらい面白い場所だと思ってください。
やはり教育はエンドコンテンツだった
ここで何しているのか色々すっ飛ばして今回は僕にとってメインにとらえている活動だけに絞ります。後は別で。
ここYCAMはメディア・テクノロジーを使って芸術や教育について積極的にかかわっている所なのですが(しかもオープンソースとして提供するから狂気の沙汰だと思っている)僕はここで
「メディア・テクノロジーと向きあいながら教育普及をしていく人材として育成されるニンゲン=ファシリ屋」
といういかつい肩書を得ることになります。
加入した理由ですが、このファシリ屋になるかどうかの面接を執り行ってくれた職員の方の理想、思想を聞いたときに僕の望む教育との関わり方を表していると思うような活動をされており、ファシリ屋になるとどうも自分も関われそうだと判明したため加入しました。
感銘を受けた活動の核となるのがスポーツハッカソンfor kidsというものなのですがこれがもうとてつもなく凄い。
ELLEGARDENが復活すると聞いた時のテンションと同じと言えば想像に易いでしょう。
スポーツハッカソン
ハッカソンていうのは簡単に言うとマラソンみたいに改善・解析し続けようぜっていう意味。ハックって日本にいるとネガティブな意味でよく聞くけれどい意味もあるのです。
そしてスポーツハッカソンというイベントはざっくりいうと、
最新の技術と僕らの知恵をすり合わせて未来の運動会でやると楽しい競技を開発しようというイベント。
これ本当に運動会までするのでエネルギーが半端ではないし、とても楽しいので参加してください。
(※源流のスポーツハッカソンの手法は僕がこれから述べるハッカソンの手法とはやや異なる)
このスポーツハッカソン(以下スポハカ)を小学生向けに改良されたのがスポハカfor kids。実はfor kidsは元来のスポハカよりハード。めちゃくちゃハード。
スポハカが二日間かけてスポーツを開発するのに対してfor kidsは
授業二時間分でハッカソン+運動会までやる
というもの。ハッカソンしてる時間は30分とかそこらだった。我々ファシリ屋はハッカソン中に「子ども達に意見を促す」「自分は決して決定しない」「今どういう内容の競技になりそうかを言語化して子ども達に共有する」といった作業を行います。今思うと正気の沙汰ではない。for kidsの流れについて触れたいと思います。
for kidsの流れ
※昨年度のfor kidsは、主に市内の小学校をめぐり、授業二コマ分を割いてもらい行う出張ワークショップという形をとっていた。そのため体育館に機材を運び終えた前提で話を進める。
- YCAMとその日来ている職員について紹介
- その日ハッカソで使う機材の紹介・確認
- ハッカソンスタート(基本的に6~13人の四チームに分かれ、四種類の機材でそれぞれ種目を開発する。)
- 出来上がった種目を発表
- 出来上がった四種目のうち1~2競技を選びミニ運動会を実施
- ふり返り
これらを二限で行いきる。というものです。さらにメインとなるハッカソンにはいくつか制約があります。それは、
- 運動会という皆が遊ぶ競技であるのでルールが簡単であること。
(徒競走をイメージしてもらうと、「バトンを受け取る」「走る」「バトンを渡す」という行程しかないので非常にシンプルである。) - 運動が苦手な人でも楽しめる種目であること
- 勝敗が数分でつくもの
など、「運動会で行う種目」という事を意識した内容になっている。子ども達は意見が散らばるとここに立ちかえって考えることになります。このハッカソンという行程は時間にしてものの数十分しかないですが、子どもに是非体験してほしいと思う要素がたくさん詰まっています。
自分が使っているものは全て誰かが作ったものだということ
子ども達が普段休み時間や放課後に遊んでいるであろうサッカーやバスケットボールなど、また、鬼ごっこやかくれんぼなど これらは全て過去に誰かが作ったものであるのです。当たり前のように思うかもしれませんが、
だれがどういう状況に陥った時に鬼ごっこを開発したのかに思いを馳せると意外と怖い。暇だからって友達を鬼に見立てるわけだから開発者は友達を失っているはず。
そしてこれらには例外なく「ルール」が存在している。サッカーで手を使ってはいけない。キーパーは使っても良い。なぜか鬼ごっこでは鬼に反撃するチャンスが無く鬼の独裁状態である。大小あれど必ずルールが存在している。これも誰かが作ったものですね。
このルールは何故できたのだろうか。どうして男子は皆後ろを刈り上げなくてはいけなくて女子の制服はアホみたいにダサかったのか。これらと進学率に何の関係があるのか。
きっと子ども達は理由が分からないルールにたくさん出会うことになるし、解消出来ないことの方が多いはずです。
そこで、ハッカソンを通してルール作りを自分が行う事で、理由が分からないまま受け入れなくてはならないルールに対しても前向きな気持ちで受け止められるのではないかという狙いがあります。そしてfor kidsはこのルール作りの誘導が非常に鮮やかなのです。
優しいルールを作るという事
運動会で行う競技なので、
皆が分かりやすくそして運動が苦手な子でも楽しめる種目を開発するという条件。
これは終始子ども達に利他的な考え方を自然に促すという完璧な設計になっています。何かを作るうえで自分以外の誰かにとって不快・難解なものではないかという視点で考える事は非常に高難度です。僕も苦手。
特に小さい頃は
「運動出来る奴is正義」
な所があるので、運動が得意な子が「運動が苦手な子も楽しめる競技」を考えるのは本当に難しい。僕が今からイギリス人を口説く方法を考えるようなものだ。まず出来っこない。その出来っこないを自然に出来ると気付かせるというのがfor kidsの素晴らしい所です。自分一人ではなく複数人で取り組むので、自分とは違う意見に触れることが出来ます。
我々ファシリ屋も子ども達がその視点になれているか、利己的になってしまわないかに気を付けて言葉を選んでいます。運動が得意な子が苦手な子の意見を聞く環境作りをすることもファシリ屋の仕事の一つです。
びっくりするくらい煮詰まる
(※ハッカソンの進行はほとんどファシリ屋が担保しているので、進め方にはやや差異がある。ここで書くのはあくまで僕個人の見解であるので、他のメンバーとはやや異なる点もある。)
基本的にハッカソン中は、与えられた機材を使って体を動かす→皆で出来そうなことを考えてみる→体を動かす...
という行程をとるのですが、新しいルールを作るという体験も、試行錯誤するという体験も、複数人で答えのない問題に挑むという体験も子ども達にとってはほとんど初めてのものなので、すんなりとは進みません。
ある意見を取り入れると問題が一つ発生する。それを解決するために要素を増やす。するとルールが難しくなってしまう。。。
という所を行ったり来たりすることになります。ここで解決出来そうな助言を告げること自体は難しくはない。しかし、それでは子ども達は「なんだかんだ答えが出てくる」という経験をしてしまう。
僕はハッカソンを通じて答えのない問題に取り組む難しさ。時には答えが出ない時もあるという事を知ってほしいと思っています。体を動かしている時は無邪気な笑顔の子ども達が、競技内容を考えているときに見せる真剣な表情(というか答えが出なくて苦しそう)こそが大事であり、全く進捗していないように見える時間こそを大事にしたいと思いながらファシリテーションをしています。
自分が焦らないということ
ファシリ屋はハッカソンの枠を知っているために子どもとハッカソンをする際、
「何分までにここまで進んで、こういうルールだと完成形が見えてくる、、」
などつい先が見えてしまう。先が見えてしまうと、現状間に合いそうにない時に焦ってしまう。焦りが出てしまうと、子ども達が安心して悩むことが出来ない。
そこで僕は子ども達の話し合いが煮詰まっている時も発想に対して前向きな反応を心がけ、自分から突拍子もない意見を言う事で少しでも意見を言いやすい環境になるように注意しています。
ファシリ屋の主な仕事にハッカソンの時間管理があるのだが、今だから告白すると焦ってしまうのが嫌でほとんどタイムマネジメントしたことがないです。すみませんでした。。。。(感覚でなんとなくは管理してたと思います多分)
子どもを悩ませ続ける存在でありたい
for kidsで子ども達のハッカソンのファシリテーションをしてきたことで、どういう言葉を投げかけたら子ども達の思考が加速するのか。自分がどういう振舞いをすれば子ども達が安心するのか。そういったファシリテーションのノウハウのようなものが少しづつ確立されてきました。
うらしま太郎がなぜおじいさんになったのかと聞かれた時に玉手箱を開けたからと答える大人でありたくない。そもそも玉手箱はどうすればいけない約束だったのか。ていうかなんで恩人にそんな物騒なもんあげたんだ。そういう所まで一緒に考える大人でありたい。そして「子どもから学ぶ」という事をごく自然に、貴重な時間だと捉えられる人間でありたい。
一年間のスポハカfor kidsを通して新しい教育との関わり方を体験することができた。とても貴重な体験でした。